現集団の形

今回も続けてサッカー日本代表について。
大会前、あれほど白けて興味が薄れていたのが一転、結果的に今までで最も真剣に動向を見守る大会になりました。こうなったら、この集団のW杯が終わるまでしつこく独自解釈を続けてしまおうと思います。



さて、コロンビア戦。本当に素晴らしい勝利でした。ただ個人的には、この集団がどんな方向に踏み出したのか最後までよく把握できないままで、「コロンビア代表との攻防に手に汗握り一喜一憂しながら見ている」というよりも、「日本代表という集団内での動向を見守っている」とような不思議な感覚での観戦でした。観察しつつ結果を見守っているような感じ。今大会は、全試合こんな感じの観戦になるのでは。これはこれで、思い出深いW杯観戦になるのかもしれません。もちろん勝った時は単純に嬉しかったですけれども。


リアルタイムの感覚で印象に残ったことは2つあり、一つは失点から後半最初の選手交代までの集団のちぐはぐ感、もう一つは、勝ち越した後、ゲームセットまでの集団(の構成員の特に一部)の結束です。これが何だったのか後でじっくり考えた結果、この集団の現時点での、不思議な(+日本的な)「まとまり方」を象徴していたからではないかと思っています。ついでに、試合を見ている時に、ふと前監督の幻のチームの姿が垣間見えた気がし、同時に、今、現監督の「手腕」と言われるものが何かも、見えたような気もしました。


試合中後半のピッチ外、もしくは試合後に選手たちの表情を見ていて印象的だったのは、大迫選手を始めとする(若い方の)選手たちの、一緒に戦った後で香川選手を見る時の何とも言えない一瞬の独特の表情でした。Looking at something precious with wonder and admirationという感じ。純粋に誰かの才能というものを認識しその恩恵を受けてから、その人と改めて対峙するときの顔というのは、ああいうものなのかもしれないなあ、と思わせる表情。現所属チームで、元同僚のオーバメヤン選手やロイス選手が見せていたのと同じような表情で、それを見た時は本当に嬉しかったです。前監督解任で、見られない光景になったと思っていましたので。それと、岡崎選手の何とも言えないどっしりした存在感、それに対する他の若手選手たちの揺るぎない信頼(尊敬?)も垣間見えた気がしています。この二つの要素がしっかりと組み合わさって、この集団に自信と結束を与える一つの核を作っているように、個人的には見えました。



こういう漠然とした、試合中・直後に感じた印象は、その後の選手たちのインタビューの言葉、表情、以降のニュースやゴシップなどを見て、何となく具体的な解釈として固まっていきましたが、今回もそれを独断と偏見で書き綴っていこうと思います。


真実は結局当人たちにしか分からないものですが、一ファンが個人的ブログで独断的視点を貫くことくらい許されるという開き直りの元に、これまで通りサッカーというよりも集団の解釈です。ので、ご興味のある方は、暇つぶしにどうぞ。




さて、まずは今の集団が少なからず結束して「戦う集団」になっていたのは、勝利からも戦い方からも明らかだったように思います。コロンビアの自滅ですとか、運という人もいますが、個人的には、この勝利に関しては、基本は実力と結束の賜物と思っています。


ただ、見ている側としては、選手たちが「何」を拠り所として結束しているのかを想像するのが難しかったのですね。どこかに前監督の影がちらつくものの、そう純粋で単純でもなく、どこかもう少し複雑。



で、色々解釈した結果、今では、現集団(少なくともコロンビア戦の出場メンバー)は、異なるビジョンと考え方を持つ二つの集団が組み合わさった形、と解釈しています。具体的には、前回解釈したところの、「戦術本田」集団と、「前監督の遺産」集団の二つが同時に存在している感じ。個人的には、このままの名称が実を表しているように思っていますが、便宜上、前者を「旧集団」、後者を「新集団」と呼ぶことにします。この二つの集団の顕著な違いは、スピードと判断力の速さと攻撃力です。旧は全体的に遅く、基本リスクを避け攻撃は断片的で突発的。対して新は、圧倒的に早く流動的。基本攻守の切り替えが早いため、同時に守備的であり攻撃的、と。


パラグアイ戦の出場メンバーが基本全員「新集団」(もしくは新+ニュートラル)だったとすると、コロンビア戦の出場メンバーは「新集団」の中に「旧集団」の要員が組み込まれている形だった、と。選手名を出しますと、新集団の中に、長谷部選手・長友選手という旧集団の中核選手が入っていたということと思っています(ただし、長友選手の場合、プレイは基本どこにいても常に自分流で、ハードワーク+スピードはあるものの、単純に新集団とは「考え方・見ているもの」が違うのだと解釈)。


で、この二人の存在が、このフォーメーションでトップ下(集団の核)を交代できるようにする繋ぎ役なのですね。この二人が入っても、「新集団」はある程度「新集団」としての戦い方ができますが、全員が「新集団」になってしまいますと、「旧集団」のトップ下、本田選手が入る場所も必要性も無くなってしまう、と思います。ですから、これが二人の異なる「トップ下」を併用し、ある程度の結果も見込める最も無難な形、と。



で、要は、コロンビア戦は新集団的戦い方で一点取り、旧集団的戦い方で一点取った、と。故に、全体が全体的に満遍なく活躍しての勝利、というように見える最終形になった、と。これが現監督の「手腕」とされているところなのだろうと思います。確かに、一試合の中でどちらの特徴も出ていたように感じます。


こういった「意思を持って何も解決しない、無難に収めて最善の結果を期待する」という集団のまとめ方は、おそらく前監督には思いつきもしなかった(日本的な)やり方で、現監督(これまでの内部事情を熟知しており、かつ日本人で、選手主導でまとめていく監督)にしかできないことなのかもしれないと思ったわけです。仮に現監督がこのようなやり方を前監督に提言していたとしても、理解されずただ一蹴されただけだったはずです。個人的にも、こうきましたか、という感じ。



ただし、これは「旧集団」を使う形を残すために、「新集団」により我慢を強いる・ポテンシャルを下げる・疲弊させるやり方だとは思っています。


例えば、パラグアイ戦で失点した時、あ、この後またバタバタと泥沼化するのかな、と感じたのを覚えているのですが、実際プレイが再開してみると、一切慌てることもなく、集団の空気感や戦い方に変化が無かったのを、とても新鮮に感じたのですね。ですから見ていて、これはいけるかもしれない、という気がして、実際、チームは逆転勝ちを収めました。



対して、コロンビア戦で失点した後、もちろん、納得の行かないPKだったということはあるものの、その後の集団の戦い方にバタバタ感が増え、焦りが垣間見え、どこかチームの動き方がちぐはぐになってしまったように感じました。で、そのバタバタ感の出発点がどこかと言いますと、長谷部選手だったと思うのですね。頭に血が上っていたのかもしれませんが、それよりも、むしろ彼が描いている図と、他の選手たちの描いている図が異なるのだと解釈しています。


実際、後半になると、長谷部選手がボールに触り指示を出す場面が増えたと思うのですが、彼の指示と周囲の感覚とに根本的にずれがあり、周囲がリズムを崩されてしまった、という印象。結果、柴崎選手にも香川選手にもボールがいかなくなったと。それが、後半、集団が中途半端に停滞した原因ではないでしょうか。香川選手には確かにマンマークが付いていましたが、時折、ふらふらとマークを外しフリーになっている場面もありましたので、そこは滞ったこととはあまり関わりがないと思っています。



パラグアイ戦後、確か昌子選手が「ベンチからの先輩たちのアドバイスが聞こえたが、自分たちのピッチ上での肌感覚を大事にしてやった」というようなことを言っていたと思うのですが、その「差異」が今回はピッチ上に持ち込まれ、皆が長谷部選手の感覚に合わせた結果、リズムを崩し行き詰まった、という感じ。最後のインタビューで、長谷部選手が、失点後は攻守のバランスをしっかりとって、コミュニケーションをとって統一していくようにした、といったコメントをしていたと思うのですが、そこの部分の彼の「バランスの取り方」が、「新集団」の他の選手の感覚と異なるのではないかと思います。以前も書きましたが、長谷部選手も、実は本田選手同様「新集団のやりやすいスピード」に対応するのは難しく、個人的には、前監督のチームが勝てなかった原因の一旦が、この選手の能力の限界にあったとすら思っています。故に、前監督の幻のチームでは、基本全員サッカーとはいえ、長谷部選手はバックアッパーになるのではと想像していたのですよね……。



ですから本当はコロンビア戦では、例えば山口選手と長谷部選手を交代して、周囲のリズムを保つという方法もあったのだと思うのですが、現監督にはそういうオプションはおそらくなくて、今のところ、あの形では、あくまで二人のトップ下の併用が基本なのかもしれないと思います。


で、全体に(必然的に)手詰まり感が出たところで、トップ下交代となった、と。で、現監督の思惑通り、結果的には本田選手のコーナーキックから決勝点が生まれた、と。本田選手の活かし方も心得ていた、と言えるかもしれません。



ただし、本田選手が機能していたのは、出場してから長くて10分前後のことで、こと勝ち越し点以降目に見えて目立つようになったのが他の選手たちの守備でした。印象としては本田選手がボールを失うことは前提で待ち構えていて、次から次にカバーに出てきて、相手のチャンスを潰していくような感じ。交代するまでの大迫選手、柴崎選手もそうですが、特に酒井弘樹選手と原口選手は、意地というか覚悟というか、もう何とも言えない凄みを感じました。それが戦術だから、と言われてしまえばそうなのかもしれませんけれど、くだらないミスで負けてなるものかという気迫と言いますか。しかも、フルタイム走り続けての、最後の10分に、です。また、終わり近く(確か)この二人が抜かれ、中央に攻め込まれた時があったと思うのですが、そこに逆サイドから乾選手がスッと当たり前のように走りこんできてブロックした時には何だかもうすごいな、の一言でした。



ですので、印象としては、3−0で勝っていたかもしれないチーム(新集団)と、1−3で負けていたかもしれないチーム(旧集団)を折衷・融合させた結果、2−1で勝利する集団になった、という感じでしょうか。ちなみに、それぞれの集団の特性を鑑みると、3−0で勝つチームの得点者は不特定多数で、1−3で負けるチームの得点者もしくはアシストは本田選手だったろうと思います。


個人的には、前監督時代から、チームがうまく機能するかしないかの確率は50:50かもしれないけれど、機能した場合のチームは強い、と思っていましたので、その幻のチームの構成員を叩き台にしている現・新集団の、今の選手たちの出来や心構えの状態から考えれば、3−0で勝っていた可能性は高いと思っています。少なくとも、せめて長谷部選手に代わり山口選手だったならば。


乾選手が少し攻撃時に周りが見えていないようなところがあり、前半に得点は生まれませんでしたが、もし1−0で折り返せば、後半得点を決めていた可能性は少なくなく、もう1点先に入っていれば、失点もなかったのではないかと思います。だめ押しのもう1点は原口選手だったかもしれませんし、大迫選手だったかもしれませんし、酒井弘樹選手だったかもしれません。



と、これがコロンビア戦を観察しての、あの時点での集団のあり方の解釈です。



次にですね、この勝利により、現監督の「手腕」をひたすら讃える風潮のようですが、それの個人的解釈から、今後の集団の流れの予測へとつなげていきたいと思います。


さて、上記のように、現監督の今のチームは、二つの別のチームが合わさった形、もっと言えば、一つの集団(新集団)が、その中にもう一つ別の集団(旧集団)が存在することと認めた形なのだと思います。母体となる「新集団」が、せっかくポテンシャルの高い集団なのだから、「旧集団」などそもそもいならいような気もしますが、それを許さないところが、今の日本代表メンバーの難しいところだったのではないでしょうか。旧集団(本田・長谷部・長友選手)の力が、様々な意味で強すぎた・特異すぎたのですね。


現監督は、この「旧集団」の扱いを誤ったが故に前監督が解任にまで追い込まれた一部始終を見ていた訳です(一旦も担ったかもしれませんが)。当然、集団に致命的な悪影響を及ぼしかねない「排除」という動きはするはずがなく、さらに立場上(持ち駒の数と性質上も)完全ベンチに追いやることもできないのだと思います。色々な意味で、この集団で結果を出すための絶妙のバランスをとっている、と。ですので、確かにこういう短期決戦の「日本人」集団をまとめ上げることには長けた監督なのではないかと思います。選手間の化学反応を起こさせたいと宣言していましたが、持ち駒=選手の質と特徴を組み合わせ、マネージメントし、うまくこの特異な集団のバランスを保たせ、それぞれにある程度納得させ、うまくいく素地を作っているというのが、現監督の行っていること、と思います。


で、ならば新集団の確変の大元、結束の拠り所は、もしかして素直に現監督なのかしら、とも思い解釈を進めてみたのですね。が、それだと何かがどうもしっくりこないのです。コメント等では「選んでもらった恩返しを結果で」「選手の意見を聞いてくれる」「監督が一番大変だと思う」といった監督への感謝や気遣い的な言葉を見かけるのですが、それと実際の選手たちの、ふとした態度や別の言葉が結びつかないのです。どちらかというと選手たちの態度と言葉から見えてくるものは、「監督を信頼して全て任せる」よりも、「決めるのは監督なのだから、任せるしかない」という感じ。結束の拠り所となるには弱すぎる気がするのです。



ので、一度監督を離れて、新集団の選手たちの実際のピッチでの動きと、練習についての言葉に解釈を移してみます。


パラグアイ〜コロンビアの戦い方を見ていますと、どうも素人の目には、基本前監督の戦い方をしているように見える訳です。縦一辺倒じゃないし、パスもつなぐし、全然違うし、と玄人の方々には叱られそうなのですが、個人的には、そもそも前監督が縦一辺倒の自分の戦術を押し付けていたというのは、意図を理解しない外野が勝手に作ったイメージであって、中でやっている選手たちのコメントには「もっと自分たちでピッチ内の状況を踏まえて判断することが必要、かつその自由は許されている」というようなものが多々ありました。実際、今、結果を出しているメンバーというのは、そういう類のコメントを出していた人々です。


かつ、練習等のコメントを読んでいると、現集団の戦い方やピッチ上での約束の決め方は、「選手間で話し合い、意見をぶつけ合い、それを監督がまとめる」というやり方に集約されていると思います。で、選手たちの中から出てきたものを統括した形が今の戦い方とするならば、やはりそれは前監督の残したもの、前監督時には体現できなかった課題を選手たちが継続して、選手たちなりに解釈・解決した戦い方、ということなのだと思います。その下地の上に、現監督のフィニッシングタッチが加わっている感じでしょうか。



さらに、これまでの経緯を見ていても、戦い方を見ていても、また他の選手たちの行動を見ていても、ピッチ上でのコントロールの仕方=「新集団」の基本の戦術を、他の選手たちに落とし込んでいるのは、実際には監督ではなく香川選手だと思います。基本のアイディアの出どころも、多くの場合彼なのではないかと思います。


で、なんとなくなるほど、と思うのは、香川選手=サッカーIQが高く、監督の頭の中の戦術をピッチ上に再現する能力に長けている選手が、欧州遠征の4戦を全て俯瞰する位置から観戦していたという事実。これは勝手な解釈ですが、故に、香川選手は、観戦した四試合から、前監督が本戦の三試合でやろうとしていた戦術の、少なくとも方向性だけは把握していたのではないかと思っています。本来の観戦の意図としては、自分がその中でどういう役割を果たせるのか、だったと思うのですが、それが今となってはチーム全体を救うことになっているのではないか、と。で、基本、現監督からの具体的な戦術の指示がない中で、選手たちが自主的に戦い方の議論をしてきたのだとしますと、そのベースとなったものは、香川選手が解釈した前監督の戦術プランなのではないでしょうか。それを、豊富な経験から一番よく理解し、周囲に示すことを手伝ったのが、岡崎選手。で、当然、その中で実際にプレイしていた選手には、その意図は分かりやすく合理的なわけで、それが選択され、磨かれ、ピッチ上で遂行されてきた可能性は高い、と。


ので、皮肉なことに、前監督が解任されたことにより、選手たちが前監督の戦術(に近いもの)を体現できるようになった、というのが真実に近いのではないかと考えています。結局、前監督は「旧集団の核」を排除しようとして内外部から反発を受け失脚したわけで、かつこの「旧集団」は、前監督が監督である限り、そのやり方に不満を持ち続け、まっとうに遂行しようとすることはなかったと思う訳ですね。だから、前監督の時にはうまくいかなかった。ですが今は、前監督からの押し付けという形ではなく、選手たち全員が自分の頭で考えるようになった上、多数決で「選手がやりやすい形」として「自分たちなりに進化させた前監督的な戦術」を選べるようになった、と。かつ、現監督になってから、「旧集団」のやりたい形を試してうまくいかなかったという事実と実際の結果があるわけですから、不満のある旧選手たちも従わざるを得ないと。



という訳で、現監督という人は、選手たちが化学反応を起こせるような配置・状況にすることに長けているが、成功するには「選手たち自身に化学反応を起こすだけの素地があること」が前提。故に、選手に恵まれればうまくいくタイプの監督ということ、と解釈しています。


今回の過程の中では少なからず幸運の要素もあったと思いますが、現監督のこれまでの功績は「旧集団」の的確な扱い方であって、彼らをうまく配置し「新集団」が機能する機会を邪魔させず、かつ「新集団」に自分たちの頭で考える機会を与えたこと、と個人的には思っています。上記のように実際の「新集団内の化学反応」自体は、選手たち自身が、前監督の時から継続して行っていることを発展させて起こしている、選手たち自身の功績と思いますので。


(故に、新集団の選手たちを使う以上、この集団のこのW杯での成功の、監督が担った部分が称えられるとするなら「ハリルホジッチー西野」の功績と併記されるべきと思います。西野JAPANというよりも、ハリル西野JAPANが正しい、と。まあ、そんなことは協会が絶対に認めないと思いますけれど(苦笑)。本当はそう認めてしまうほうが、ハリルのままではダメだったと頑なに言い続けるよりも色々楽なはずなんですが……)。


ちなみに、前監督は試合を見ていないと言っているという記事を読みましたが、もし前監督が日本の試合を見たならば、少なくとも試合の半分は、自分が行おうとした戦い方であり、かつ選手たちは自分の叩き込んだ教えを守り戦っているのであって、大切に育ててきた宝を現監督に奪われたように感じているかもしれない反面、とても嬉しいのではないかと想像しています。前監督は、選手たちのことを「My boys」(フランス語で)と呼んでいたという何かをどこかで見ましたが、その「My boys」が自分の教えを遂行し強くなっている姿をみれば、やはり嬉しいものなのだろうな、と。



ここで、選手たちに話を戻し、現在集団内の関係はどうなっているのかを想像してみます。


上記のように、香川選手と岡崎選手が中心となって戦い方の基礎を高いレベルで他選手に伝え、それを受けて新集団が体現して見せたのがパラグアイ戦。若手に、戦術的な意味での考え方を伝えているのは香川選手、3度目のW杯という経験から本当に役に立つ心構えを伝えているのは岡崎選手という構造なのではないでしょうか。そこに、他の選手たちが共感し追随している、と。


以降もその構図は変わらないまま、コロンビア戦に臨んだのだと思います。また、個人的には、本田選手の「言葉」に集団が惑わされることがなかったのには、柴崎選手の急激な(精神面の)変化が大きかったのではないかと思っています。それと、大迫選手と原口選手の、純粋にサッカー選手として香川選手と一緒にやりたいと思う気持ち、あたりも大きいのではないでしょうか。守り守られ、ですね。こういうことこそ、個人的には一番効果的に香川選手を強くするのではと想像しています。



逆に、実際の結果や当人たちの言葉とは裏腹に、どうも長谷部・長友両選手が、他の選手たちと深いレベルで理解しあっているようには見えないのですね。そこに本人たちが気づいているのかどうか。少なくとも違和感は感じているかもしれません。試合後のインタビューでの両選手の、他の選手たちとは若干異なる言葉と不満気な(不安気な)表情も気になりました。仲が良いと言われる長友選手と香川選手ですが、もしかすると現時点においては、見ているものが違うかもしれません。


本田選手も、マスコミでのイメージとは異なり影では盛り上げ役になってかつチームの中心にいる、というような記事も見かけるのですが、どうもそれと選手たちの彼への態度が結びつかないように見えています。むしろ若手の選手たちには、どこか相手にされていないような。また、現監督が、今後この旧集団のベテランたちをどう扱っていくのかも、なかなか想像がつきません。


現監督への、選手たちのどことない素っ気なさも、旧集団をどう扱うのかへの不安、そして結局は彼らを「優遇」して自分たちに負担を課すんだろう、という思いが、若手の選手たちのどこかにあるからかもしれません。



ですから、現状一つにまとまってはいるものの、現監督および旧集団と、新集団の心の距離感は実はかなりあり、考えていることもずいぶん異なった状態ではないかと想像しています。


ただし、新集団の面々がこれまで自分たちが積み上げてきたものを証明して見せる、自分たちができるということを結果で見せてやる、という意思で、そこの部分(不満)を割り切って自分たちの中で受け入れている、という感じ。「俺たちは、この中で、この状況で戦って結果を出さなきゃいけないんだ、出してやるという覚悟」が結束の拠り所なのかもしれません。遠からず「前監督」ではあると思いますし、選手たちにもそれぞれ、色々思うところはあると想像するのですが……。



この、集団内の微妙な緊張関係がうまく続くことを祈りますが、それは全て現監督の集団の扱い方にかかってくるのですよね。


結果が出ているうちはまとまりますが、少しうまくいかなくなった時に、亀裂はどうしようもなくなってしまうはずです。現在でも、こと、大迫選手と柴崎選手は、旧集団=本田選手トップ下でのプレイはしたくないという嫌悪感を抱きつつ、それを抑えてプレイしているようにも感じます。また、どんな意図で言ったにせよ、ミスしても失点に繋がらなきゃいいとの本田選手の発言を、死ぬ気で走ってそのミスをカバーしている他の選手たちはどのように捉えたのでしょうか。


集団に、目的に沿って揃えられた控えがいなさすぎるところも気になります。新集団が試合の中で行き詰まる・疲れてきた時、現控えメンバーを使った別のオプションが、仮に現監督の頭の中であったとして、それはきちんとピッチ上でW杯で通用するレベルで遂行できるのでしょうか。


正直なところ、これまでに成功した2戦は、試合への入り方を、香川選手の力にかなりの部分頼ってきているように思います。現監督が、そのあたりをどう理解して、どんなメンバー構成で今晩の試合に挑んでくるのか、気になるところです。個人的に、香川選手を中心とした選手たちの中では、マリ戦という基盤の上に進化させた形があるのではないかと思うのですが、もしかして、ここで現監督の独自色などの大博打を打ってくるのでしょうか……。それが当たるのかもしれませんが、選手たちの意見を尊重した布陣が見たいのが正直なところです。


ここで、やはり個人的に戻ってきてしまうのが、前監督でこのW杯を見たかった、なのですけれど。個人的には、やはり久保選手、中島選手、森岡選手、三竿選手は、現・新集団のような戦い方をする上では必要な要員だったのだろうなと感じています。柴崎選手の急速な成長ぶりを見ますと、さらにそう思いますが、今更仕方がないのでもう封印(苦笑)。


ともかく、今晩のセネガル戦を期待して待ちます。



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