前監督の遺産

すっかり白けて関心を削がれてしまったサッカー日本代表。しつこいようですが、ずっと楽しみにしていただけに、なかなかモヤモヤを消し去れないのですよね。いつの間にか本番が近いですが、楽しみにもできず、かといってすっきり今回はもういいやと諦められるわけでもなく、という感じ。


ので、いっそ徹底的に一連の出来事を整理し、解釈し、ついでに現状から見通せる限りの予測もしてみようと思います。


で、何となく色々と代表合宿の記事を追ってみますと、スイス戦で現実と向き合うまでは、全てが前向きに明るく雰囲気も良いというような報道ばかりが目に付きましたが、もちろん実際はそんなことはなく、新体制ってこんなものなのかなと選手たちが様子を見ている+くすぶっているものが表面化していないだけ、という印象があります。


「これまでと違いチーム内・選手間でしっかりとコミュニケーションが取れて」いるのではなく、「無理やり描かれた楽しげな幻影の中でふわふわと地に足がついていない」状態ですね。実はその間も、集団内には「和気藹々とした雰囲気」に内心違和感を覚えていた選手が少なくなかったと思います。まあ、ネット上で確認出来る記事や映像を見る限りなので、真実のほどはわかりませんけれども。



ともかく今回も、人々の言葉、表情、行動などから、ごく勝手に、現在の日本代表という集団のあり方を推測して言葉にしてみようと思います。これまで同様、サッカーというよりも集団の話ですが、ご興味のある方は、暇つぶしの読み物にどうぞ。(かなり長いですけれど)



まずは、この集団に具体的に何が起こっているのか、今後どうなりそうなのか、あたりを解釈してみようかと思います。



が、やはりその前に前提として、今回の監督解任事件と代表のメンバー選考について、もう一度、きちんとまとめておきます。いくら表層の言葉でごまかしても、この二つは切っても切れない表裏一体の関係ですものね。



で、最初に、ハリルホジッチ前監督が選んでいたと思しきメンバーを、3月末時点までの前監督の選手選びと起用傾向、それと会見と会見に至るまでの前監督の言葉から推測してみました。


素人ですので、戦術やポジション等に必要な能力などの、専門的なことはあてずっぽうですが、それでも、恐らくは当たらずとも遠からずと思っています。すでに各ポジションの候補者は絞られていましたし、多分、その中から、最終的には「ある一つの目標を持った特定の特徴を持つ集団の構成員を選ぶ」という観点で選ばれていたと想像しています。で、そのあたりの前監督の思考の流れを追うと、選手選考はこうなったのではないかという感じ。さらに想像を進めますと、前監督の頭にあった「集団の特性」は、「無私と献身性」と考えています:


「僕自身、“最高の選手なんだ”と考えたことはないよ。ただの一選手であって、ピッチに立ち、試合が始まれば僕らはすべて一緒なんだと考えている」


というのは、かのメッシのインタビュー記事から拾った言葉ですが、要は、この精神ですね。常に「自分のこと」を「ただの一選手=チームの一員」であると考えることができそうな選手たち(少なくともそれを乱す可能性の少ない組み合わせの選手たち)です。前監督がよく言っていた「全員がヒーロー」であるチームの構成員候補ということですね:



GK:
川島永嗣(35)
東口順昭(32)
中村航輔(23)
DF:
長友佑都(31)
槙野智章(31)
吉田麻也(29)
酒井宏樹(28)
車谷紳太郎(26) または遠藤航(25)
酒井高徳(27)
昌子源(25)
植田直通(23)
MF:
三竿健斗(22)
森岡亮太(27)
長谷部誠(34)
大島僚太(25)もしくは山口螢(27)
香川真司(29)
柴崎岳(26)、調子さえよければ井手口陽介(21)、ただし理想としては清武弘嗣(28)を呼びたかったと推測
FW:
久保裕也(24) 
中島翔哉(23)
大迫勇也(28)
原口元気(27)
宇佐美貴史(26)
小林悠(30)もしくは岡崎慎司(32)、調子さえよければ浅野拓磨(23)



名前が併記していあるところは、どちらにも転んだ可能性がありそうな、いわゆる当落線上にあったと想像する選手たちですね。一番最初に書いてあるのが、可能性が高かったと推測する選手です。


FW。前監督が、怪我の状態と他のメンバーとの対比、バランスをどう考えていたのかにもよると思うのですが、いわゆる「ベテラン枠」として呼ばれる人があったとすれば、FWの岡崎選手だったと思っています。理由は単純に、トップクラスのリーグにいる選手の中で、「この集団に必要な考え方(=無私と献身)のできる」人材と判断されただろうから。調子さえキープしていれば、年齢とスピード感から浅野選手が第一候補だったのではないかとは思いますが、残念ながら、現状そうではなかったようですよね。小林選手の名前を最初に書きましたが、最後の最後で中島選手という点の取れそうな新星が現れたので、色々なことを天秤にかけた結果、ここにベテラン枠を持ってきた可能性は少なくないと思っています。


MF。柴崎選手を一番手に書きましたが、能力・調子云々ではなく、単純に監督がこうと決めた集団の「質」にそぐわないという理由で、ここは柴崎選手ではなく井手口選手、もしくは他の誰かが選ばれた可能性も高かったのではないかと想像しています。ただし、井手口選手の状況と状態と、周囲とのバランス等を天秤にかけ、他に目ぼしい人材は見当たらなかったので、どちらも可能性があったという感じでしょうか。それと、清武選手に怪我がなく調子を保っていたならば、ここは一択で清武選手だったと思うのでついでに併記。


大島選手と山口選手は、前監督が、最終的にどういう賭けに出るかで、どちらにも転んだと考えています。ただ、二人同時には選ばれなかったのではないかなという気がしましたので。


DF。控え的なメンバーの予測は難しいですが、基本車谷選手が、予選通過後、使われないながらも常に呼ばれてきているので、テスト生というよりも控えの第一候補という扱いだったと推測。



こう見ますと、現メンバーとたった5人しか違わないのですが、それでもずいぶん集団としてのイメージが異なるのではないかと思います。突出した「スター然」としている選手はなく、「集団で日本代表」という感じがする集団、と個人的には想像しています。まあ、地味だったかもしれませんし、マスコミには不評だったでしょうけれど。


上記予想からの多少の変動はあっても、前監督が最終的に選んだであろう集団には、独特の地に足のついた雰囲気があり、意外なほど強くなったのだろうと想像しています。決して華やかではないけれど、堅実に着実に勝ち点を重ねていくことができたかもしれない集団、「運」ではなく「実力」で、目標とする16強までたどり着き、そこから先は「運」で、いけるところまで進んでいけたかもしれない集団ですね。


そして、本戦では一試合ごとに異なる「ヒーロー」が生まれていたかもしれないと想像しています。単純に、予選までと同じように、です。予選でも、多くの「ヒーロー」が生まれましたものね。選ばれなかった中で見ても、清武選手、突然復帰召集された今野選手、井手口選手、久保選手、浅野選手、どの選手もいずれかの試合で、決定的な仕事をして、出場に貢献してきています。


何がしたいのかわからないと批判され続けていた前監督ですが、その基本となるポリシーは、実は予選時からずっと一貫しています。「全員が一人のメンバーとして同列である集団で戦う」ですね。ですから、前監督の中では、日本選手全員の底上げと意識改革が急務で、かつこれまでに関わってきた全てのメンバーが、選ばれようが選ばれまいが本戦でも皆で戦っている気持ちでいてほしい、というような考え方だったのではないかと想像します。だからこそ、試合に出れなかったことを残念に思っていた選手が二人いたことを悲しく思った、と言っていたのではないでしょうか。


で、理想としては、最終的に本戦に選ばれた集団は、選ばれなかった人たちの分も力を尽くす、というまとまり方をする、と。だから、本戦でも(能力が代表としての一定水準に達している者は)「その時の調子」で選ぶと公言してきたのではないでしょうか。これは、まさにマスコミやサポーターが大好きで、かつ協会(会長)も声高に謳った「W杯本戦で一丸となって戦う」という形の具現化と思うのですが、テストマッチの内容と結果ごときで前監督に不満を言っていた人々は、具体的に何を求めていたのでしょう、と不思議になります。


で、本来であれば、今頃、最終集中合宿の貴重な時を経て、この集団がぐんと成長し、全く新しい日本代表の片鱗が見え始めていたのではないかと想像し、どうも胸が痛みます。というか、楽しみにしていたのでかなり腹立たしいほど痛みます。



さて、対して、こちらが現メンバー。確かポジションは分かれておらず、GK以外は皆フィールド・プレーヤーなのでしたでしょうか。奇妙な意図だけが見え隠れしますが、とりあえず対比のために便宜上分けておきます。



GK:
川島永嗣(35)
東口順昭(32)
中村航輔(23)
DF:
長友佑都(31)
槙野智章(31)
吉田麻也(29)
酒井宏樹(28)
酒井高徳(27)
昌子源(25)
遠藤航(25)
植田直通(23)
MF:
長谷部誠(34)
山口蛍(27)
大島僚太(25)
香川真司(29)
柴崎岳(26)
FW:
大迫勇也(28)
原口元気(27)
宇佐美貴史(26)
岡崎慎司(32)
乾貴士(29)
武藤嘉紀(25)
本田圭佑(31)



基本の持ち駒は一緒で、監督が変わったのだなと思わせる選択ではありますが、集団としては、核となるべき「特性」が見当たらず、構成員に一貫性があるように見えません。


が、なんらかの意図があって選ばれた集団なのですから、そこの「意図」を細かく想像してみようと思います。


もちろん、ここで深く関わってくるのが、前監督解任の経緯です。今回の監督解任は、単純に「代表メンバーの選出」と関わっており、そもそもそれ以外に、この時期に解任すべき理由などありません。現代表が現在のメンバーであるために、前監督は解任されたわけですから、前監督解任の経緯を正確に把握することは、「現在の集団のあり方」を語る上で不可欠なのですね。


解任の経緯は、前回解釈したことがおそらく遠からずなのだと思いますが、選出されたメンバーの構成と、現監督になってからの二試合の戦い方などから、もう少し詳しく解釈してみようと思います。



まずは、事実確認から。
前監督解任の理由として、「ベテラン勢」「スポンサーの気に入り」を復帰させるため、と騒がれていますが、そもそもマスコミによって「ビッグ3」と名付けられた三選手の中で、前監督のメンバーに確実に含まれていなかったと推測できるのは本田選手一人です。


「しばらく活躍もしていないベテランが、スポンサー枠忖度で選ばれた」という揶揄も、そもそも岡崎・香川両選手には当てはまりません。両選手共に、直近の数ヶ月前に怪我をするまでは、欧州の4大リーグ一部のクラブのキーマンとして、今期のみならず、過去数年間、波がありながらもコンスタントに試合に出ていたはずですから、怪我の状態が戻ったと判断されれば、代表に呼ばれる可能性があって然るべき選手です。ブラジル以降4年間、サッカー選手として最も地道に努力し、サッカー選手として直近まで最も結果を出し続けてきた選手の中の二人ではないでしょうか。


しかも、この二選手は、言動をよくよく見ますと、前監督の求めていたであろう「無私と献身」という考え方を持っているように見受けられます。現状では、戦術上・選手のバランス上、戦力として集団に必要とみなされても然るべき選手たちだったと思いますので、二人が前監督に選ばれない理由があったとすると、怪我だけだったと思います。が、結局は二人とも現代表に入っているのですから、怪我の状態もその後のコンディションも、マスコミが騒ぐほど、問題にはなっていなかったと考えられます。もし怪我明けで実戦感覚が鈍っているのに選ばれたことが問題になるのならば、それは選手ではなく監督の判断の問題ですから、選手が非難の対象となるのはおかしな話です。


また、もし仮にこの二人が、前監督に選ばれていたであろう誰か別の優秀な若手を押しのけて現代表に呼ばれていたとして、その優秀な若手とは具体的に誰なのでしょうか。実際、今回、こと攻撃陣で代表入りが「見送られた」と思しき選手で、よく名前が上がるのは久保選手と中島選手ですが、代わりにおそらく前監督のままでは呼ばれなかった乾選手と武藤選手が入っています。もう一人、森岡選手は、個人的には山口選手に代わり選出されていたのではと考えています。


では「忖度枠」のこの「ベテラン」二選手の代わりに前監督が呼んだであろう選手とはいったい誰なのでしょうか。これまでに一度も呼んだことのない10代の選手? 前監督の傾向と、現在の日本人選手の状況から推測して、それは考えにくいです。


と、細部を見て解釈していきますと、岡崎・香川の両選手には、そもそも前監督交代を画策する必要性はなく、そうした形跡も、本人たちの発する言葉と行動からは伝わってこないということは、現集団を考える上で、もっときちんと理解されるべきではないかと思います。


香川選手は、確かに代表への思い入れは強く、外された時には悔しかったと言っていますが、すぐに必ず選ばれると信じて自分は自分の準備をするだけ、と切り替えたと話し、実際そのようにして結果も出しています。岡崎選手は、新監督が視察に訪れた時、そもそも自分が選ばれる対象となるとは考えていなかったので嬉しかったというような発言をしていたと思います。


さらに、そもそも実力で選ばれていたであろう選手たちに対して、スポンサーが「特別枠」を要求したというのも奇妙な話です。今回の件に限って言えば、スポンサーが関わっていたというのは言いがかりであるように思え、個人的には、なぜこの二人が「忖度されたベテラン選手」として本田選手と同列に並べられるのかも理解に苦しみます。



次に、監督交代によって、可能性が限りなく低かったところから代表復帰を果たした選手について整理します。これは、本田選手、武藤選手、乾選手の3人と思いますが、その中で、前監督への不満を公言し、かつ監督が交代した途端に、代表内での立ち位置がガラリと代わり、明らかに利を得ているのは本田選手一人です。武藤・乾両選手はあくまで、前監督の戦術に合わないと言う理由で選考外だったのが、単純に監督交代の恩恵を受け選出されただけかと思います。


本田選手に関しては、戦力外から中心選手に返り咲き、チーム内での発言力が増し、かつ、戦術も前監督の下では行われてこなかった(もしくは、はるか昔に試されて捨てられた)彼を中心としたものに変わっています。つまり彼には、前監督の解任を望む明確な理由が存在し、かつそれをなんらかの形で達成したからこそ、今の地位にあるわけです。



ですから、前監督の解任に関しては、本当に見えるまま、それに当人の言動から判断するままに、本田選手一人がcoup d’Étatにつながるような行動を起こしたと考えるのが妥当と思います。これは、前監督の会見での「ニシノが、一人の選手が不満を持っていると言ってきた」という言葉とも合致します。


ちなみに前監督の発した「不満を持っているのは二人」という言葉が一人歩きしていますが、あれは、話の内容全体を見ると、20人近くいる選手の中のたった数人が不満を言ったことが、コミュニケーション不足ということか、という意味合いであって、2名という数字が重要だったわけではないように感じます。



が、もし本田選手の他に、このcoup d'Étatに(多かれ少なかれ)同調した選手がいたとしますと、それは、ウクライナ戦後の言葉、監督解任前後の言葉、また新体制での直前合宿が始まってからの言動を解釈する限り、長友選手と長谷部選手と考えるのが妥当と思います。大体、それ以外の選手たちが同様の行動を起こしても、会長に対してそれほどの影響力があるとは思えません。


監督解任を後押ししたのは、「選ばれなかった(とマスコミが信じる)」ベテラン選手と安易に考えられがちですが、むしろ確実に選ばれただろう発言力のあるベテランが、戦い方に不満と不安を抱き、「本田選手の会長への直訴=前監督のやり方への批判(選手の意見をまったく尊重しない・専制的・日本選手の良さを無視している・日本のサッカーの発展の事など考えていない、あたりでしょうか)」を肯定した可能性の方が高いと思うのですね。それを、会長氏が愚かにも間に受けた、と。


ですから、前監督のやり方に不満を覚え、監督人事にまで(直接・間接的に)口を出したベテランを指して「ビッグ3」と呼ぶのであれば、本田選手、長友選手、長谷部選手の名を挙げるほうが、まだ事実に近いのではないでしょうか。長友選手は、本気で本田選手の言葉を信じたのでしょうし、長谷部選手は、解任まで望んだかどうかは分からないものの、自分自身が前監督のやり方に不満があったのではないかと推測しています。


もちろん、これはあくまで勝手な想像に過ぎませんが、もし仮に事実から遠くないことだったとするなら、彼らはそれぞれが正しいと信じることを貫いて行動を起こしたはずですから、堂々とそのことを認めるべきと思います。心にやましいことがないのなら、周囲に何を言われようと動ぜず、批判も甘んじて受け入れるのでなければ道理が合いません。逆に、自らの信念に基づいて動いてみたものの、もし途中で過ちに気付いたのなら、その時点で素直に非を認めるべきと考えます。


集団にとってよろしくないのは、マスコミのイメージ操作だけで、前監督解任には直接関わりのないだろう選手たちが、造反云々のいわれのないそしりを受けなければならないこと。しかも、この交代劇によって、実質、選手の多くは何ら利を得ていないわけですから特に、です。正しくない認識があっては、集団は決してまとまりませんから。


(個人的には、前監督が訴訟を起こした理由の一端もその辺りにあるかもしれないと考えています。真実を明かし、経緯と謝罪を明確に発表することを望んでいたはずですが、これはきちんと然るべき人に責任を負わせるためとも考えられますので)



少々話が散らかりましたが、ともかく今回の前監督解任の基本構造というのは、「会長氏が本田選手の言葉を真に受けて、現実にはそぐわない愚行に走った」だと思います。さらに、解釈を重ねますと、会長が間に受けた本田選手の「思想」は、以下のようなもの(本田選手のインタビュー記事より)だったと思います:



「誰一人無関係じゃないし、関係者であれば全員が関係してるんで、そこには情報戦があって、お互いがフィロソフィーっていうのはその情報の中で築かれていくと思っているので、会話一つのレベル取っても、選手同士も、選手とスタッフも、メディアもサポーターも、サポーター同士もその基準を上げていかないといけない。基準は本当に低くなったなっていうのは4年前見ると思いますよね。善戦すれば合格になってきているけど、そんなんじゃなかったでしょ。オランダだろうが、ベルギーだろうが、絶対勝つってくらい言い切って4年前は挑戦してたし、その土台がなくなったなっていうのはもう一度、背伸びしていいんですよ。僕は背伸びして、理想なかったら、サッカーなんかやるべきじゃないと思っているので。理想追い求めてナンボなんで。もう一度理想を選手だけじゃなくて、日本サッカー関係者全員で築いていかないといけないですね。こういう理想を追い求めようっていうのを」


「日本は(W杯のある)毎4年、違うサッカーをしてここまで来ているというのが現状。次のステップに行かないといけない──そう、ずっと言ってきたことだけれど、その転換期に来ていると思う。僕はこの難しい状況をどう打開するかということを、1人の選手として、日本人として考えているし、トライしようと思っていることもある」



どこに胸を打たれる要素があるのかよくわかりませんが、この、何の根拠も裏付けもない「オールジャパンで理想を追い求めよ」という言葉が、ごく未熟な(=60代の男性にしては驚くほど幼稚な表情をする)会長氏の心を揺さぶり、「選手たちのほうがずっと大人であり、ずっと日本のことを考えている」という結論に辿り着かせたのであろうことは想像に難くありません。話者も聞き手も似た者同士、レベルも同等で気持ちも通じやすかったのかもしれません。


本田選手は副業で子供サッカー教室ビジネスに熱心ですし、会長氏も若年層の育成に熱心だと聞いたことがありますから、現会長が会長だったことは、本田選手には幸運だったと想像します。どちらも、自分とは異なる考え方を理解できるだけの度量がないが故に、自分に分からないことを考える者は無能であると心から信じることができ、視野が狭い故に「自分が知らないものはない」と思い込んでしまえるようなタイプですね。世の中には、もっと広く深く異なる考え方がたくさん存在するということが、「本当に」理解できないのではないかと思います。


ちなみに、上記本田選手の言葉のここでの解釈は「俺が中心だった時はもっとワクワクしたでしょ。実際、あの時は親善試合では強豪相手に勝ったじゃないですか。背伸びして、俺がでかいこと言い続けたからですよ。理想を語るってことがサッカーなんですよ。今はそう考える俺を入れないから地味でダメでレベルが低い。俺が活躍すれば、みんなに夢を与えられるし、それが日本にとって一番だと思いますよね。代表が俺のやり方で俺の理想を体現するようになれば、代表はもっと盛り上がると思う。今、どうやってそれを実現しようか思案中なんで」です。


こういう考え方もあっていいとは思いますが、彼の言葉は、残念ながら表層と本音とに乖離がありすぎます。そして、現実を正確に認識することがあまりにも出来ていなさすぎです。



以上が、前監督解任の経緯の、事実と遠からぬ詳細と解釈しています。



で、次に、こういう経緯を受けてのメンバー選考だったということを念頭に、現代表がどんな「意図」のもとに選ばれたのかを推測してみます。


第一に、本田選手の上記のような言葉と思想を信じての、鶴の一声での前監督解任のようですから、当然、新監督のメンバーには、その「思想」の発案者が入らねばなりません。かつ、彼がその「思想」を体現できなければなりません。


ですから、集団の出発点に本田選手がまず存在し、続いて彼が一緒にプレイしやすいと感じているだろうメンバー=前回の中心メンバー等が入ります。ことによっては、彼が「評価できない」とした選手の名もここであげられ、外されたかもしれません。


新監督の思惑が出てくるのは、おそらくやっとこのあたりから。まず候補者の中から監督自身が知っている選手が選ばれます。前監督が前監督のプランに基づき「発見」したばかりの選手達は、自分に使いこなせるか、もしくは本田選手との相性がいいかが分からないため選考外へ。代わりに前監督に「冷遇」されていた選手を、変化をつけるために召集。残りは、時間もありませんから、基本的に前監督が直近で最も起用してきたメンバーをそのまま選ぶしかなかった、と。



少し話は逸れますが、何か、集団でしなければならない仕事があり、それを遂行する集団を作ろうとする時、その仕事の80パーセントは、構成員を選んだところで終了していると言われることがあります。つまり、選ぶ人=監督の仕事の大半は、誰を選ぶか、に費やされ、ここの是非でほぼ結果は決まってしまうのだそうです。それほど、構成員選びは重要ということですね。だから、前監督は時間をかけてじっくりと、選手の見極めを行っていたのだと思います。本番に向けての一番重要な作業でしたでしょうから。



前監督が目指したであろう集団の特性が「無私と献身性」「スターのいない集団=全員がヒーロー」、戦い方が「堅守速攻」「戦術遂行」であったとするならば、現代表が本来目指したかったものは、その発足の経緯からも「本田選手の特異性」に全てをかける集団、だったと言えるかと思います。


このブログでは何度も書いているのですが、本田選手の突出した能力というのは、異常に強い意思の力だと考えています。


サッカー選手としては、技術も一流とは程遠く、サッカーIQも中途半端で、口では戦術云々と色々分かっているようなことを言いますが、多くは本などで読んだ受け売りで、彼の能力では、自身が言っていることすら、実はほとんど「理解」はできていないのではないかと想像します。個人的には、彼のサッカー選手としての能力に最も適しているのは、2部リーグチームの1部昇格請負人といった役割だと考えています。


(その役割をきちんとこなし続けたのであれば、その立ち位置が「ミランの10番」よりも格下だったとは、個人的には一切思わないのですけれど……。適材適所、その立ち位置でプロフェッショナルになればいいのですから。ですが、それを認めることは、彼のプライド、もしくは欲が許さなかったのでしょうか)


そういった程度の実力の選手が、思い込みの力と、誰かのプレイを模倣する努力と、運が齎してくれた一つの実績(南アフリカWC)のみで、代表での現在の地位にいるのですから、その「思い込み」の能力が如何に突出しているかがわかるかと思います。


で、会長氏は現実主義的な前監督の全員サッカーを切り捨て、彼の、この運任せの特性に賭けたわけですね。ですから、本来、この集団の構成員は「本田選手が、その思い込みの力で得点を取る」ことを全員で目指すために集められなければならなかったのだと思います。


ですが、現集団選出の意図を見ましても、完全にその目的で全構成員を選べてはいないはずです。少なくとも、意図は三つに別れてしまっています。1.戦術本田の構成員、2.新監督の持ち駒構成員、3.前監督の遺産構成員、ですね。ですから、集団としては、このメンバーが選考された時点で、すでにまとまりに欠け、目的遂行の可能性は著しく低かったということです。



また、仮に彼の「特異能力にかける」という戦術が、構成員選びからまっとうに遂行されたとしても、そのチームの勝敗はかなりの部分「運」に左右され、強いチームだったとは考えにくいです。


何よりも、その戦術の可能性を、前監督が考慮に入れていなかったはずがなく、前監督は、かなり冷徹に、かつかなりの時間をかけて本田選手の「能力の質」の見極めを行ってきたと考えています。もちろん、同選手の「特異能力」を生かす戦い方もはるか昔に試し、その上で彼を「予選要員」と割り切ったのだと思います。前監督が現実主義者で計算できる選手を好んだということを差し引いても、監督としてW杯で実績があり、選手としても高いレベルで活躍した前監督が「本田選手の特異な能力を考慮に入れ試した上で、最終的に戦力外とみなした」という事実は見過ごされてはいけないのではないでしょうか。


さらに言えば、本田選手自身の「特殊・特異能力」自体、体現できる可能性が、8年前ならいざ知らず、現在では著しく低くなっています。理由は単純に準備が足りないから。そもそもサッカー選手としての能力が他の代表選手とは最低でも1ランクは異なるわけですから、彼は本来、他の選手の2倍はサッカーをすることに時間を費やさなければならないはずです。それをして初めて、ギリギリ他の選手についていくことができるレベルなのだと思います。


ですが、ブラジル以降の4年間を見て、彼が行ってきたことは純粋にサッカーというわけではありません。以前、本田選手の記事で「プロのサッカー選手が練習に費やす時間は1日3時間。それ以外の時間をどう過ごすかはそれぞれだ、自分はそれをビジネスに費やしている」と説明しているのを読んだ記憶があります。これは、彼が「自分がもともと持っている能力に甘んじることを決めた」ということで、具体的には、サッカー選手としては、良くて「2部リーグトップ」の実力のままでいる決断をした、ということです。


トップクラスで活躍する選手たちは、「チーム練習に費やす時間は1日3時間」で、その他の時間を「個人的な課題に取り組む時間(リラックスや気分転換も含めて)」に費やしているはずです。そもそも彼よりも能力の高い他の代表選手たちが、こと前監督就任後、サッカー選手として彼の何倍もの時間をかけ地道に努力を積み重ねてきているわけですから、彼と周囲との実力差は、現在、これまでにないほど広がっている状態と思います。そんな集団の中に「2部リーグトップ」の地力の、しかも30を超えた、日常でサッカー以外のことに時間を費やしている選手が入るのですから、例え「意思の力」でチャンスを呼び込んだとしても、それを結果として体現できる体がないだろうことは、単純に考えれば当たり前ではないでしょうか。



つまり、現代表は、そもそも完成形が強くない(=W杯で戦えるようなレベルにはない)チームが、完成すらできていない状態なのですから、直近の二試合の内容も結果も、推して知るべしといったところと思います。


合宿の様子、選手たちのコメント等を見ていても、感じられたのは、貴重な大会前の集中合宿の時間を使い、さらには「W杯で戦える実力の選手たちを使って」、精神面でも戦術面でもチームとしてのまとまり方も、「2部リーグで1部昇格を目指す」チームを作り上げているという印象でした。


他の選手たちにとってみれば、(本来、自分たちの実力以上のことを懸命に吸い込んでいなければならない時期に)自由に緩いことをやらせてもらっているわけですから、合宿の間は楽しいはずですし、W杯ってこんなもんなのか、という気持ちになるのは当たり前のことです。で、実際の試合になって「あれ?」となる、と。「本田選手を中心にチームを作る」ということは、そういうことなのだと思います。


ですから、自らもそのレベルでしかサッカーを見ることが出来ないサッカー経験者たち(=実業団時代のサッカーOBや初期JリーグOB、ここに会長=権力者、おそらく現監督も含まれると推測)には、「チームがやろうとしている形が見えてきた」のだと思います。そうではなく「W杯で戦えるチーム」を見たいと考えているファンが「???」となり、きちんとサッカーを知っているOBたちが危機感を覚える理由もそこにあるのではないでしょうか。「チームの完成形」という同じ言葉を使って、まったく異なるものを見ているわけですから。



これが、本田選手を中心として考えた時に、現在この集団に起こっていると考えられる事の個人的解釈です。



で、さらに解釈を重ねます。視点を変えまして、他のメンバーたちの状況というところにフォーカスを当て、今後どうなりそうなのか、という予測に繋げてみようと思います。


新監督・本田選手・会長氏の意図云々は置いておいて、現代表の構成員そのものから考えますと、この集団は「戦術本田」を遂行するためのチームの劣化形、というよりは、前監督の理想としていたチームの劣化形、と考える方が正しいと思います(劣化形というのは失礼な表現のようですが、集団作りの成功・不成功の80パーセントが構成員選びにかかっているという観点からの「劣化形」の意ですので悪しからず)。


現メンバーは、1.戦術本田の構成員、2.新監督の持ち駒構成員、3.前監督の遺産構成員から成ると解釈しましたが、実のところ、代表復帰を果たした3選手を除き、全員が「前監督の遺産」構成員でもあるわけです。かつ、復帰を果たした3選手のうち2選手は、前監督の求めた「特性」に合わなかったこと以外は、代表選手として相応の実力はあるわけです。という事は、ごくごく単純に考えれば、選手の能力として、突出した「異物」は、あくまで本田選手一人ということです。


で、この異物選手もしくは、オシム前監督のいうところの「腐ったリンゴ」の力というものは、「思い込みによる言葉の影響力・念」なのですね。そしてこの力は実は「現実・真実」の認識の前では、まったく無力になるわけです。本田選手の強みというのは、自己の能力に対する「無知」と、そこから来る根拠のない自信にあります。例え、試合で現実を見せつけられても、彼には自身の何が悪いのかが「本当に理解できない」のだと思います。故に、自信を持って、事実と乖離した理由付け(言い訳・責任転嫁)をし、しかもその理由付けに対して一切疑いを抱きませんから、他の選手たちは、試合という現実で「あれ、おかしくね?」と体感・実感しても、その後の会話や練習で、その迷いのない「虚・嘘」に惑わされてしまうのですね。それが、ガーナ戦からスイス戦に向かうまで、だったと思います。



恐らくですが、久保選手という人はこういうことで惑わされるタイプの選手ではなかったのではないかと想像します。それが彼がメンバーから外れた理由の一つなのではないかと。


逆に、残念ながら、惑わされてしまった選手の代表格が、原口選手と槙野選手のように思います。槙野選手はもともと場の空気を読み適応するタイプなのだと思いますが、一時期、とても引き締まったいい表情をするようになったと思ったのもつかの間、現在の表情には、戦う者としての締まりが無くなってしまいました。少しだけ会長氏の表情に似ている部分が見え隠れするのも、残念でなりません。原口選手は、自身がたまたま2部リーグ優勝で1部昇格を果たしたチームにいたことで、少し本田選手と感覚を共有できてしまう精神状態だったのかもしれません。が、もともとは「実」に重きをおくタイプと考えていますので、どこか違和感を覚えつつ、なのかもしれません。


ちなみに、長友選手は情に流され判断を誤ったタイプ、長谷部選手は自分の利害が本田選手とある程度一致していることを分かった上で納得済みで虚を受け入れているタイプ、恐らく乾、武藤、山口選手あたりは、そもそも人として本田選手と気が合わないわけではなく、かつ他人の動向にあまり興味を抱かないタイプと想像します。柴崎選手は、自身のエゴがかなり強く、本田選手とは距離を置き、影響はあまり受けないタイプかもしれませが、自分が活躍できれば何でもよいと考えていそうではあります。あくまで外部から眺めた時の想像ですけれど。この辺りが、「戦術本田の構成員」候補というカテゴリーに、現在のところ入っている(た)のではないかと察します。



一方で、図らずして前監督の遺産(考え方・能力共に)を顕著に受け継いでいる選手群があり、それが香川選手と酒井宏樹選手。そこに、恐らく大迫選手、吉田選手(?)、岡崎選手、川島選手あたりが、どれだけの比重でかは分かりませんが、肌感覚での理解で属している、と考えています。「前監督の遺産」カテゴリーですね。特に香川選手は、そもそも現代表を選んだ側の意図としては「戦術本田」カテゴリーの筆頭として考えていたのではないかと察するのですが、今の彼は、現監督にそういう気も起こさせないほど、本当にいい顔をしていますね。強くなったなあと素直に思います。


その他の選手たちは、一ファンには判断材料が少なすぎてなんとも言えませんが、基本的にはどちらに転んでもうまく流されることができる人々と想像します。ここに「新監督の持ち駒」カテゴリーと、残りの「前監督の遺産」カテゴリーの面々が入っている、と。あまり突出した影響力がないと思しき選手たちが、新監督の持ち駒というところも、現在の代表の何たるかを如実に物語っているような気もします。



さて、この構図が、スイス戦の結果を受けてどのように微妙に変化しそうかを想像してみます。


まず、長友・長谷部の両選手ですが、前監督の意図と自身の判断の過ちに恐らく気づいたのではないかと考えています。特に長友選手は、以下の過去の自身のコメントが、目的を達成するための過程という中では正しいものではなかったことを、痛感しているのではないかと思います:


「裏を狙うだけではなくて、(本田)圭佑みたいに降りて味方を助ける。特にディフェンダーの選手にプレッシャーが掛かると裏に蹴るのはなかなか難しかったりするので、そのような状況でも勇気ある選手が足元に降りてきてタメを作って、そこでファウルをもらって時間を作ったりするのが大事ですよね。僕はディフェンスラインから見ていて、(本田のプレーが)本当に助かった。(本田には)そのようなプレーが多かったなと思います」


「マリ戦でも、圭佑が入ってからリズムが出てきたし、今日の前半もあそこでタメを作ることでサイドバックも上がれる、中盤も押し上げられる、ディフェンスラインも押し上げられるという効果がありました。地味なので見えないかもしれないですけども、チームに与える効果というのは絶大だなと思いますよね」


「時間帯など、いろいろありますけども、ある程度ボール保持もできないと。そのオプションが自分たちにないと、結局、今日みたいにクオリティの高いチームだとポゼッションされ、守備で疲労し、ボールを奪った時に精度が落ちる。だからこそ、すべて裏へ抜けて縦に速いサッカーだけではなくて、(本田のように)中盤に降りてきてボール保持して、時間を作って、その間に良いポジションを取って、少し休んでというサッカーも自分たちの中のオプションで持っていないと、やはりしんどいですよね」


「やはり圭佑のサイドは起点を作っていましたし、別に『本田 圭佑だから』とか、『ずっと戦ってきた戦友だから』などと言って、こうやって皆さんの前で喋ってるわけではなくて、皆さんも上から観ていて思ったと思うんですよね。『やはり起点になっている』、『チームが変わった部分があった』と」


結局のところ、自分でも知らず言い訳を付け加えてしまっていたように、長友選手は「本田圭佑だから、ずっと戦ってきた戦友だから」選手としての現在の彼に対する客観的な判断を下せなかったということではないでしょうか。そして、それに気づいたのではないかと思っています。恐らくは、前監督に見えていたものが、やっと彼にも実感を持って見ることができるようになった、という感じではないかと期待を込めて想像しています。故に、情に流され判断を誤ったタイプ、と。



長谷部選手に関しては、「戦術本田」が通用しないとなると、自らのピッチ上での立ち位置も少し怪しくなってくる選手と思います。個人的には、前監督下では、合宿の出来によっては、本番で三竿選手のバックアッパー+精神的主柱役を期待されていた選手と考えています。三竿選手がおらず、かつ現監督下という中で、彼がどのような形で身を引くのか、また集団内での立ち位置がどのようになるのかは、興味深いところです。最後まで「戦術本田」を貫くための努力をするのかもしれませんし、別の可能性を探るのかもしれません。



また、恐らく、これまで前監督の下で戦ってきた選手たちの体に、知らず知らずのうちに、前監督の遺産がかなり残されていると考えています。


一つは、戦い方の基礎と、戦うための準備の厳しさを、選手たちがいつの間にか体で理解していること。例えば、槙野選手が、4バックに戻った際、考えなくても自然と体が動くというようなことを言っていましたが、そういうものこそ、前監督が3年間かけて積み上げてきた目に見えにくい遺産です。まず、頭で考えずとも反射的に体が動くものがすでに選手たちの中にある、ということですね。この上に、前監督が短期合宿で「上乗せ・仕上げ」をしていこうとしていたことは、以前解釈した通りですが、少なくとも基礎の部分はそう簡単にはなくなりません。それに、選手たちが気づいたのではないかと想像しています。


また、やはり戦う準備というものは、楽しさではなく厳しさの中で行うべきという原点回帰の考え方もちらほら出てくるのではないかと思います。3年間そうやってきたわけですから。一時の物珍しい楽しさがあったとしても、人は結局は慣れ親しんだものに返っていくものです。


次に、前監督は、やはり代表選手全体の底上げに成功していたと思っています。それによって、例えば、香川選手と本田選手の根本的な違いというものを、体で理解できる選手が集団の大多数になっていただろうことは想像に難くありません。本田選手の能力の欠如を「タメ」という言葉に騙されることなく、事実そのままに判断できる選手が多いということですね。ですので、本田選手の能力と自分たちとの差を、これもスイス戦の後で、選手たちははっきりと認識したと思います。自分たちの献身を同選手が生かせないことにも。



故に、集団の大多数が、すでに「戦術本田」の構成員であることから脱却しつつあるのではないかと思います。そして、前監督の遺産を体現している選手たちに同調しつつあるのではないでしょうか。冷静に現実を見始めさえすれば、互いの能力を互いに見極められる選手たちが揃っているのでしょうし、一旦、言葉と現実に乖離があると実感すれば、騙されることも無くなるのでしょうから。



また、これは怪我の巧妙になってほしいと期待する部分ではありますが、今回の一連の経緯(解任〜選出〜合宿〜スイス戦)を経て、選手たちが、前監督の意図とその遺産のありがたみを理解・体感できるようになったのであれば、集団全体が確変する可能性はまだあるのではないかと思います。



ただし、次戦のパラグアイ戦には、さほどの期待をしてはいません。先発メンバーが大幅入れ替えになるとのニュースを読みましたが、ここに現監督の明確な意図があるとは思えず、当てずっぽうで化学反応を期待している、という基本「戦術本田」的な戦い方しか、この監督はできないのではないかと察しているからですね。もしくは、本田選手に変わるラッキーボーイの出現を、現監督は期待しているのかもしれません。つまりは運任せ、ということですね。それに、現監督に、集団が一つにまとまる主柱のような明確な指示が出せるかというと疑問が残ります。


故に、これまで同様、がっかりさせられる可能性のほうがまだ高いと考えています。まず、この「サブ」先発メンバーは、前監督時代にも試されたことのあるメンバーですし、かつその上で代表入りを見送られた選手が入っている訳ですから。


多くがピッチ上の選手たちの判断にかかってくるだろう中で、選手間の能力・性質のバランスを、現監督が考慮した上で先発を組んでくるとは思えません。個人的に乾、武藤、柴崎の三選手は、プレイ中のエゴがかなり強いところが、前監督の方針に合わなかった選手たちと考えています。チームの基盤が、そもそも前監督の遺産なのですから、こと、武藤選手と柴崎選手に関しては、どれだけ個人のエゴを抑えチームの勝利に貢献できるかが重要になってくるのではないでしょうか。


そのあたりをよくよく考えると、香川選手を入れるのであれば、相性がいいのは武藤選手よりも原口選手のように思いますが、恐らくそういう選択を現監督がしてくるとは思えません。ただ、香川選手には、自分が集団を牽引しようと思っているならば、こと柴崎選手を自分自身のプレイで納得させ従わせるくらいの心の強さを持って臨んで欲しいと願っています。ただし、任せるところは任せて。



結局のところ、現在の集団が拠り所と出来るものは、好むと好まざるとに関わらず「前監督の遺産」一択であって、かつ、それを選手がきちんと自覚しながら戦いに挑むことにしか、真の光明は見出せないのではないかと思います。個人的には、そこへの転換を表立って牽引出来るのは長友選手であり、行動で示すことが出来るのが、香川選手と酒井宏樹選手あたりではないかと考えています。そこを前提とした上で、現在の集団に何を上乗せできるのかは、柴崎・乾両選手の意識の持ち方にかかってくるのではないでしょうか。正直なところ、武藤選手にはそういう柔軟性があるようには見えませんので……。



また、蚊帳の外にされた本田選手の「特殊能力」がどのように集団に影響を与えてしまうのかも、まだ未知数と思います。


この集団が成功するための唯一の光明が、前監督の遺産を選手たちが選手たちなりに踏襲し発展させることであろう中で、もし選手たち自身がそのように動き出したとしても、外の権力者やその意図を組んでいるかもしれない現監督が、それをどのように受け止めるかも、まだ想像はつきません。ピッチ上に立ってしまえば選手たち自身の力ですが、そこに立つ集団を選ぶ権限を持つのは、あくまでも監督なのですから。ただ、もしかすると、そういう部分で活躍できるのが、仮にバックアッパーに甘んじたとしても、長谷部選手なのかもしれませんね。



遠くから眺めているだけの集団に対して、限られた情報だけで、ごく勝手な解釈を続けてきましたが、これも結局のところ期待するがゆえなのですよね。選手たちの正しい努力は、報われて欲しいものですから。


何れにしても、今晩のパラグアイ戦で、もう少し明確なものが見えてくるかもしれません。



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