人によって、持って生まれた器というものがあるのだと思います。
そして、その種類や大きさに応じて、あるべき地位や、立場や、
能力を発揮できる居場所があると思うのですね。


個人的には、それを単純に「適材適所」と呼んでいますが、ふと、
そんな言葉が浮かんだのは、先のフィギュア・スケート世界選手権での、
浅田真央選手の演技を見たときでした。



浅田選手、なんだか「適所」にいない状態のように見えるのですよね。
なぜ不調なのか分からない、というようなコメントを読みましたが、
単純に、息が詰まっている、ということに、本人も回りも
気がついていないだけではないかしら、と思ったりして。


今、教えられていることに対して、本能的・直感的に「何か違う」と
感じるのを、どうにか頭で納得させて、身動きが取れなくなってしまって
いるのではないかしら。何といいますか、多少の修正が必要なところを、
違った方向に全修正しているように見えるのですけれど……。


「100」の中で「8」間違っているものを直すのに、
「10」の中で「8」間違っているものを直すようなやり方をしている感じ、
というのでしょうか。



良し悪しではなく、適材適所の観点から、素人目には、やはり、
「100」の中の「8」を修正するよう導いてくれる人の下に行くのが
理想なのではないかしら、などと思ってしまいますが、でなければ、
とにかく自分自身が一番正しい、美しいと思う形を、今は評価されなくとも、
誰に反対されようとも、貫くほうが良いのではないかしら……。


勿論、客観的な目もあった上で、とは思いますが、浅田選手の場合、
演技の良し悪しを見極めるのに、本人の直感・本能に勝るものは、
実は、あまり無いのではないでしょうか。それを押し殺して、
10の完璧を目指しているかのように見える姿は、そこはかとなく寂しく、
もしかして、あのような「器」の才能は、日本という受け皿から少し
離れた方が、より力強く花開くのかもしれないとも感じます。
どこにいても、浅田選手の持つ、大和撫子としての強さや
美しさが消えるわけではないでしょうし、むしろ、今、大局を
見失うような事態に陥ってしまっては、本当に、本当にもったいない。



そういえば、英国役者たちのバイブルとも呼べる本の一つに、
こんなくだりがあります:



   …I think it is important to be quite clear that the
   exercises have nothing to do with making you technically
   more accomplished. They are for the purpose of freeing
   the voice so that it is able to respond to the instinct
   of the moment. (‘Voice and the actor’, Cicely Berry)



本全体の内容と合わせ、ざっくりと意訳しますと:


   
   これは明確にしておかねばなりませんが、訓練というものは、
   決して、役者が、技術的により巧くなる為に行うものではありません。
   それは、「声」という機能を自由にしておくことで、演じる瞬間の
   表現への直感を、すんなりと体現できるような、そんな身体でいる為に
   行うものなのです。



でしょうか。


声の訓練書ですので、「声 Voice」となっていますが、どんな技術に
置き換えても、言いたいことの本質は伝わると思います。練習や
訓練というものは、「本番で、『練習や訓練を忘れる』ために行う」
という考え方で、これは、練習通りに演じる、ということの
少々上を行く表現方法なのですよね。役者はスポーツ選手のような
芸術家ですから、芸術家のようなスポーツ選手=フィギュア選手にも
通じるところはある、と思うのですけれど……。



もともと、浅田選手は人並み以上に練習をすると聞いたことがあります。
それを、どううまく本番に繋げていくか、というのは、実は「頭」の問題で、
私見ですが、もしかして、浅田選手が必要としているのは、技術や表現力の
強化ややり直しというよりも、ほんの少しの足りないコツを学ぶことと、
自らの才能を客観的に、正確に認識すること、そして、解釈力
(振り付けの動きが持つ意味や、音楽の奥底にあるものを深く理解する力)
を深めること、なのではないかしら。



それから、もっともっと男らしさ(!)を出すことも。
逆風が強く激しく、孤立無援の中にいるようにも見える浅田選手ですが、
抜きん出た才のある人は、結局のところ、自らでその才能と身とを
守らねばならないのだと思います。浅田選手には、一人ででも
「男らしく」戦い抜き、困難をねじ伏せるだけの力が、
本来備わっているように感じます。頑張れ、浅田選手!



……などと書きつつ、気がつけば、頭の中を、
V6の「強くなれ」が回っていました。なぜでしょう(苦笑)?
が、これは、現代的な言葉だけれども、まっすぐで力強い曲。
特に、若い人たちの腹に、ガツン、と響くのではないかしら。
聞いたことの無い方は、聞いてみてくださいね。



と、今回は、フィギュア・スケート浅田選手について
思うところを、ごく独断的に綴ってしまいました。
皆さん(フィギュアスケートに興味のある皆さん!)は、
どう思われますか……?



ところで、最近このブログ記事に、星を頂くことがあります。
拙い文章ですが、ご賛同下さる方がいることは、
素直に嬉しいです。ありがとうございます。
前回の記事にも星を頂いており(!)、恐縮しきりですが、
甘えまして、乱文そのまま、削除せずにおくことにしました。



それでは、恐縮しつつ、今回はこの辺で……。




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