地球座の Lovely Things

……これを書き始めたのは、先々週の末でした。
書き終わらず、時間がある時に続きを、と思っていましたら、先週、
やけに忙しい日々が続き、いつのまにか次の週末が過ぎていました。
うっかりです(苦笑)。


相変わらず体調は今一つで、騙し騙し仕事をする日々ですが
11月は災難月と諦めて、力強く生きているこの頃です(笑)。
皆さんは、お変わりありませんか?体調を崩したりしていませんか?



そんな訳で、少々話題が古くなってしまいますが、
今月初旬に、東京グローブ座の公演に行ってきました。
先月中にチケットを予約し、ずっと楽しみにしていた公演です。


まさか当日、風邪をひいているなど全く予想外でしたが、そんなことは
ちっとも気にせず、咳止めを飲んで、マスクで完全防備し、ウキウキと
観劇をしてきました。……故に風邪をこじらせたという噂もありますが、
そんなことは気になりません。楽しみがあるって、愉しいですね(笑)。



さて、東京グローブ座です。
エリザベス時代の円形劇場グローブ座を模して建てられ、建設当初は
シェイクスピア作品の普及・上演を目的にしていたのだそうですね。
後にジャニーズ事務所の手に渡り、改装され再オープンしたと聞いています。
中々行く機会がありませんでしたが、是非一度、足を運んでみたい劇場でした。



で、実際に行ってみて、少し残念に、もったいなく感じたのは、
客席と舞台がきっちり分かれて配置されていたこと。


一階客席や舞台の位置は、色々と変えることが出来るようですが、
それでも劇場平面図を見ますと、円形の劇場が二分割され、
円の上半分が舞台、下半分が客席という形になっています。


二・三階席も、ほぼ平面図の下半分に配置されていて、
日本で一般に劇場としてイメージされる「対面式」の劇場
(客席と舞台が別れて、向かい合っているもの)になっているようでした。


それが、本来円形には向かない様式を、力技で導入しているように
この目には映り、とてももったいないと感じたのですね。妙な例えですが、
折角の素材を、料理法で無駄にしてしまっている、という印象でしょうか。
(勿論、今回客席から見た限りの個人的な意見、とお断りしておきますね。)



演劇は全て英国を手本に、と言うのではありませんが、この劇場は
シェイクスピアのグローブ座を模した、今も「グローブ座」という
名を冠する劇場ですので、この東京版「グローブ座」を
もったいないと感じる理由‐‐「シェイクスピアの円形劇場」が
本来持っている良さについてを、少しだけ書かせて下さい。



まず、シェイクスピア時代の芝居について簡単に説明を……。


16,7世紀の英国の芝居では、勿論今の様な舞台セットや背景画はなく、
場面の情景は全て役者の身体と言葉で表現されていたようです。
舞台上の役者が台詞と動きとで、観客の想像を掻き立て、
役者と観客が一体となって芝居を作り上げていた、というのですね。


シェイクスピア作品の、プロローグやエピローグにあたる台詞で、
役者が観客に「宜しくご清聴・ご想像の程を」とお願いしたり
慇懃に礼を述べたりするのは、その為と思います。


台詞が長く、くどくどと説明を繰り返すのも同様の理由からで、
観客(聴衆)が、一部分を聞き逃しても、話の筋が追えるよう、
キャラクター本来の「台詞」を繰り返した上、合間には、あらすじや
場面背景、状況の説明を、何度も入れていたらしいのですね。


ですから、当時の観客にとっては、とにかく役者の言葉を「聴き」
役者の存在を肌で感じとることが、「観劇」だったようです。
今でも英国の人々は、舞台を「聴きに行く」と言うことがありますが、
視覚よりも聴覚で芝居を楽しんでいる様子が窺えますよね。



で、グローブ座なのですが、こういった「聴く」芝居を上演するため
満を持して建てられた劇場だったらしいのですね。特徴は、
劇場の中央まで伸びる張り出し舞台と、それを囲むように建てられた
円柱形の、しかも背の高い三階建ての客席棟。


円柱形の客席棟で囲まれた中庭は、Yardと呼ばれる立ち見空間です。
で、客席は、回廊のように棟の内側にあり、Yardに張り出す舞台の
両側ぎりぎりまで観客が座れるようになっていた、と。さらに、
舞台の上、真後ろにあるバルコニーにもLord's Roomと呼ばれるVIP席(?)
があったそうですので、役者たちは、ほぼ360度観客に囲まれていた訳ですね。



それでですね、グローブ座という劇場を語る上では、この
「劇場中央にある張り出し舞台」と「それをぐるりと囲む客席」
という二点が、欠かせない重要なポイントと思います。



まず、舞台は劇場中央になければ、円形である意味がなくなります。
東京でもロンドンでも、再現されたグローブ座の平面図を見ますと、
張り出し舞台の中央の、客席との境目に当たる辺りが、
劇場の円形の中心になっています。
(東京の場合は、可動式客席の前から三列目の真ん中辺りですが、
張り出し舞台と思しき線が書いてあります。参考に下記をご覧下さいね。
http://www.tglobe.net/pdf/heimen.pdf


円形の客席の、ほぼ中央に舞台があるという事は、役者の言葉が、
全客席にまんべんなく届くという事で、まさに「聴く」には最適。


しかも、三階建ての客席棟は、舞台に対して垂直に立っており、
勾配も急ですので、舞台から極端に「遠い」観客がおらず、
舞台上の役者は、どの位置にいる観客とも、ほぼ同じような
繋がりを保つ事が出来るのです。円形というよりも球形で、
まさに「グローブ=地球」座という訳。球体劇場=世界=地球の
中心にあるものが舞台、ということなのかもしれませんね。



で、殆どの観客が、ごく近い距離に役者の存在を感じられますから、
当然、球体劇場には、一体感も生まれやすくなります。



……ええとですね、スポーツ観戦を想像すると分かり易いかしら。
野球やサッカー、バレーボールもボクシングも、観客席と試合場が
対面式になっている、なんてことは考えられませんでしょう?
試合場は、大抵360度観客席に囲まれています。そして、白熱した
試合を称して、「会場が一体となった」などともよく言われますよね。



この裏ブログでも、シェイクスピア芝居をよくスポーツに例えますが、
グローブ座での芝居はまさにスポーツ感覚。元々、Bear-baiting 闘熊
という、熊と犬を戦わせる見世物があり、それと同等の感覚で存在していたのが、
当時の芝居らしいのですね。ですからグローブ座も、現在で言う「劇場」より
闘技場や競技場に近く、観劇にもスポーツ(?)観戦的要素があった訳です。



と、少々長くなってしまいましたが、以上がグローブ座に代表される
円形(球形)劇場の持つ魅力です。(参考にロンドングローブ座の座席表の
Webアドレスを書いておきますね。目の部分をクリックすると客席から舞台を
臨む写真を見ることが出来ます。ご興味のある方は是非見てみて下さい。)
http://www.shakespearesglobe.com/theatre/box-office/seating-plan-and-prices



ちなみに、「対面式の劇場」は、英国では、シェイクスピア時代の後、
舞台装置や背景画が発達して、舞台を正面から見る芝居が
作られるようになった為に定着した形と言われます。


日本でも、歌舞伎などが、舞台セットも醍醐味の一つという
演劇だそうですから、やはり客席と舞台は対面式になっています。
こちらは、視覚で楽しむ「見る」芝居、という事でしょうか。


ですが、対面式に芝居を「見る」のなら、円形ほど適切でない形は
無いのですよね。やはり多くの人数が正面を向いて座れる
四角形が合っているように思います。



どうでしょうか。この「円形劇場」に「対面式客席」が設置される事の
もったいなさが、なんとなく伝わりましたでしょうか……。



さらにですね、この「張り出し舞台」というものは、
役者の視点から見て、難しく、面白く、演じ甲斐のある舞台。


簡単に説明しますと、舞台上には役者にとって使いやすい位置と、
使い難い位置があり、舞台役者は演じながら、サッカー選手のように
良いポジションを取り合い、けん制し合ったり、又は
協力して良い連係を作ろうとしたりしています。これが、
360度から見られる舞台ですと、平面的な舞台よりも
ポジショニングが複雑になってきますので、より面白いのですね。


英国の役者は、三方向の観客に向けて演技する能力も鍛えさせられます。
近代劇ですと、正面にいる観客からの見え方だけを考えて
稽古をすればいいのですが、シェイクスピア時代の作品を演じる時は、
基本、360度をぐるりと観客に囲まれていると仮定して稽古をします。
ですので、三方向+背でも演じなければなりませんから中々大変。


当然空間認識能力とバランス感覚が必要ですし、あちこちの観客と
コミュニケーションを取りつつ、他の役者を相手に演じていなければ
ならないので難しいのです。でも、だからこそ観客は、スポーツを見るような
緊迫感や、予測できない面白さを期待できるという訳です。



で、ですね、何しろ、ジャニーズの「アイドル」たちは、
多分日本で最も360度の観客に慣れている人々と思います。


折角360度に慣れた演者、専用「球形劇場・グローブ座」と
揃っているのですから、その気になれば、日本の「舞台」の
固定概念を外れた面白い芝居が出来るはずで、
その可能性を無駄してはもったいない、とつい思ってしまいます。


もちろん、観客あっての舞台ですし、日本の観客がどれほどそういう
「闘技場芝居」になじむのか、という問題はあるのだと思いますが、
英国式を直輸入するのではなくて、独自に受け入れられるものに
作り替えていくのも面白いと思うのですよね……。


何にせよ、折角の円形劇場ですから、円形劇場でしか作れない
素敵な舞台作品を、多く作って欲しいな、と切に願ってしまいます。



少々話題が飛びますが、そういえば英国ロイヤルシェイクスピア劇団の
専用劇場が、昨年〜今年リニューアルオープンしたそうなのですね。
ストラットフォド・アポン・エイボンの劇団本拠地には、
ロイヤルシェイクスピアとスワンという名の劇場がありますが、
大劇場である前者は、対面式劇場でした。
一方小劇場スワンは、張り出し舞台のある劇場。


この大劇場の方が、長い間「問題児」だったのですね。
シェイクスピアを上演するには不向きな劇場として悪名高く、
観客は飽きて寝てしまうし、作り手も中々生き生きとした芝居が作り難い。
ので、主要な名作は、殆どが小劇場スワンで行われていました。


この対面式大劇場を、RSCは一念発起し巨額の費用を投じて、
スワンを参考にした張り出し舞台の劇場に全面改装したのです。
同時にスワンもリニューアル。で、ですね新劇場がどちらも、
先のV6コンサートの舞台にちょっと似ているのです(笑)。
ご興味のある方は、下記の写真をご覧くださいね。


新しいスワン劇場
http://www.flickr.com/photos/stagedoor/5427110235/
古いスワン劇場(真ん中辺りにある、Swan Theatreとかかれた小さな写真)
http://www.luxurytraveler.com/london-theatre.html
新しいロイヤルシェイクスピア劇場(二枚目の写真)
http://www.guardian.co.uk/artanddesign/2010/nov/23/royal-shakespeare-theatre-revamp
古いロイヤルシェイクスピア劇場
http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/3916483.stm



……と、気付けば随分長々と書いてしまいました。やはり
本職の話題で、ついつい力が入ってしまったのかしら(笑)。



さて、肝心のお芝居そのものですが、とても好きなタイプのものでした。
捻りのある設定も、堂々とした恋人同士の愛情表現方法も、
英国育ち(?)には、ごく馴染みがあり、すんなり楽しめました(笑)。


が、それを書いているとこの更新がさらに伸びそうですので、
芝居そのものの感想は、次回に持ち越しますね。ごめんなさい!



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