No. 66

……3月は、何と2週間近く寝込んでしまいました。何とか復活した後は、
雑務に追われ、やっと一息ついている今日この頃。ああ、何だかなあ……。


気付けば、いつの間にか4月が近づいていますが、まだまだ寒いですね。
皆さんはいかがお過ごしですか?うっかり寝込んではいませんか?



近頃、虚弱で家に籠りがちですので(笑)、暇つぶしにTVをつけますが、
公共の電波にのった言葉の、妙な乱れが気になって仕方がありません。


自らも、随分怪しげな日本語を使っていますが、その辺りは
きっちり棚に上げまして(笑)、最近特にイラッとするのが、
「〜させていただく」の乱用です。猫も杓子も、どうにも
色々させて頂いていて、腹が立ってなりません。
「〜いたします」で済むような気がしますが、いかがなものかしら?



それから、「おります」と「いらっしゃいます」の使われ方も
何となく微妙なのですよね。使う必要の無い場合に使い、ここでは
ちゃんと使いましょうよ、という時に使わなかったりしますね。


例えば、俳優の何々さんが「記者の質問にお答えになっていらっしゃる」
というような表現を聞くことがあるけれど、俳優の何々さんが、
「記者の質問に答えていて」も、ちっとも失礼ではないと思うのですね。



敬語・丁寧語の乱れは、大分以前から指摘されていますし、
自らが正しい表現をきちんと心得ている訳でもないのですが、
何だか最近、とにかく気になってなりません。どこかから
「お仕事、頑張らさせて頂いております」などという言葉が
聞こえようものなら、もう何とも腹立たしくて、力一杯、
「『お仕事頑張っています』にしとけよ」と罵倒させて頂いております。



そう思って、気をつけて辺りを見回してみると、広告や、
商品の取り扱い説明なども、微妙なものが多いのですよね。


「注文して頂いたあなたに、弊社から感謝を込めて、記念品を
贈らせて頂いております」……ええと「ご注文頂いた方に、
記念品をお贈りしています」では駄目?



それから、今、流行りの「〜してあげる」という表現も中々愉快ですね。
料理番組では、卵をふわっとさせてあげたり、化粧品販売では、
肌を保湿してあげたり、整理整頓では、一つにまとめてあげたり、
ファッションでは、ポイントになる色を入れてあげたり。


さらに「敢えて」や「逆に」の奇妙な使い方でも、笑わせて頂いております。
逆に、敢えて、ここでも奇妙な言葉の使い方をしてあげる感じ?



……などと、イラッとしていたはずが、いつの間にか姉と、
大爆笑する日々。ので、愉快で良いといえば良いのですけれど、
……でも、ああ、何だかなあ。



そう言えば、直接言葉ではないけれど、こんなこともありました。
ずっと探していたある商品を、以前近所のスーパーで見つけたのですね。
それから、その商品はそこで手に入る、と安心していましたが、
先日行きましたら、それがいくら探しても無いのです。


で、品切れかしら、と店員に聞いてみましたら、その店員曰く、
「当店の定番商品は、大抵一カ月で入れ替えますので」。
思わず「それは、定番とは言わないですので」と返しそうになりました。



コンビニの商品も三カ月で入れ替えと聞きますから、せめて
「当店は流動的に商品を入れ替えますので」と言う返事なら、納得はしない
までも、「馬鹿じゃないの?」とは思わずに済んだのではないかしら。




で、ですね、何となく、言葉の乱れが、価値観の乱れ、秩序の乱れに
繋がっているような気がしてならないのですね。社会で使われる語彙が
少なすぎて、言葉が乱れ過ぎて、結果、人々がきちんとものごとを「理解」
できないようになってしまっているのではないかしら、と。
故に、センセーショナルで浅い事ばかり追いかけまわしている、と。



そう思うと、本当に国語は大切ですね。それと、その国の古典文学も。
個人的には、小学生に中途半端な英語を教えるよりも、万葉集古事記
枕草子源氏物語平家物語あたりから抜粋して暗唱させる方が、
後にずっと子供たちの役にたつと考えています。
(……と言う当人が、全部を読んではいないのですけれど……(苦笑)。)




ちなみにですね、色々、ああ、理不尽だなあ、と腹立たしくなり
気力を無くすことも多い近頃の日本ですが、どうやら16世紀ロンドンも
状況は然程変わらなかったようで、シェイクスピアがこんな詩を
残しています(ちなみに今回のタイトルNo.66はこの詩のタイトルです):



  Tired with all these for restful death I cry:
  As to behold desert a beggar born,
  And needy nothing trimmed in jollity,
  And purest faith unhappily forsworn,
  And gilded honour shamefully misplaced,
  And maiden virtue rudely strumpeted,
  And right perfection wrongfully disgraced,
  And strength by limping sway disabled,
  And art made tongued-tied by authority,
  And folly, doctor-like, controlling skill,
  And simple truth miscalled simplicity,
  And captive good attending captain ill:
   Tired with all these, from these would I be gone,
   Save that to die I leave my love alone.


(ざっくりとした意訳)
 世の不条理に耐えかねて、いっそ安らかな死を、と願う:
 立派な人物が、乞食として生まれ、
 くだらぬ者どもが、豪華な衣服をまとう、
 無垢な誓いは、惨めに破られ、
 輝かしい栄光は、恥に塗れて、不当な者の頭上に落ちる、
 貞淑な乙女は、突如、売女と化し、
 完璧なものは、道理なく犯される,
 強いものが、みすぼらしい権力者に叩きのめされ
 智慧の口は、権威の手でふさがれる、
 学者などの愚者どもが、知りもせぬ技巧を操り、
 純粋な真実は、愚直と貶され、
 囚われの善人が、不徳の主人に仕える:
   そんな全てを見兼ねて、この世界から去りたいと願う、
   ただ、愛するものを残しては行けぬと、やはり私はここに留まっている。




いつの世も、社会は理不尽なのですね。で、上記の詩のように、いくら
その不条理に呆れ果てても、世の中に嫌気がさしても、これだけは
何とかして守りたいと思える何か――恋人に限らず、仕事でも何でも
良いのですけれど――があるかないかで、人は、生きる覚悟も
強さも、そして困難に陥った時の対応も変わってくるのでしょうね。



で、自分にとってのそういうものは何かしら、と、ふと考えた
3月末でした。……皆さんはいかがでしょうか?




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